「夏祭りに舞い降りた翼」
今年の夏祭りは例年に比べて特別な雰囲気に包まれていた。町の中央広場には色とりどりの提灯が飾られ、夜空を駆ける花火の音が響く。浴衣を着た子供たちが笑い声を上げ、屋台の香ばしい匂いが漂う中、私は遠くの雪山を思い出していた。
あの雪山の隠れ家で、私は初めて彼女と出会った。幼い頃、家族で訪れたその場所は、子供心に夢のような存在だった。彼女は、雪の白さの中に銀の翼を持った天使のような少女だった。雪の中を駆け回り、時折こっちを振り返って微笑んでくれた。
その冬の日、彼女は私に約束をした。「来年の夏祭りに来てね。」と。私はその約束を心に刻み、彼女の姿を心の中で鮮明に描きながら日々を過ごした。
しかし、その夏祭りの週、私はどうしても彼女のことを思い出してしまう。友人と共に祭りを楽しむうちに、ふとした瞬間、彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。もしかしたら、彼女も今頃どこかでこの祭りを楽しんでいるのかもしれない、と思った。
花火が打ち上がり、広場が色鮮やい光に包まれる中、私は町の裏手にひっそりと佇む神社へ足を運んだ。そこは、彼女との約束を思い出す場所でもあった。今でもそこで手を合わせれば、彼女との思い出が蘇るのだ。
神社の境内には、たくさんの人々が集まり、願い事を書いた短冊を吊るしていた。私は、彼女と一緒に書いた短冊を思い出し、心の中で再び彼女に約束を交わす。「今度は絶対に会おう」と、はっきりとした言葉で。
夏祭りの祭り囃子が聞こえる中、私は境内を一周して戻った。すると、突然のことだった。目の前に、あの銀の翼を持つ彼女が現れたのだ。驚きと困惑が私を包み込み、声も出せないまま、ただ彼女を見つめていた。
「待たせたわね。」彼女の声は、あの日の雪山から響いてくるように優しかった。「お祭りへの招待状、遅れちゃったけど、来られてよかった。」
「お前、本当にいるのか?」不安な気持ちがまとわりつく。彼女の存在が夢のように思えたからだ。
「わたしは、あなたの記憶の中にいるの。だから、無理に信じなくてもいい。でも、今日ここにいるのは確かなこと。」
彼女が手を差し伸べる。銀の翼は輝き、まるで星が降り注ぐかのようだった。恐る恐るその手を取ると、不思議な温かさが伝わってきた。まるで本当に彼女を抱きしめているようだった。
「お祭りを楽しむことが、私との約束よ。」彼女の言葉が耳に残り、私の背中を押す。
美しい浴衣姿の彼女と共に、私は夏祭りの喧騒の中を歩き出した。屋台の明かりが揺らぎ、祭り囃子の音が空に散りばめられている。彼女が隣にいるだけで、周囲のすべてが幸せな色を帯びていった。
「ねぇ、花火が上がるわ。見に行こうよ!」彼女が指差した先には、浅い山を背にした花火の打ち上げ場所があった。私たちはその場に急ぎ、快活に笑い合いながらベンチに腰を下ろした。
次々と打ち上げられる花火は、夜空を色彩豊かに染め上げた。顔を上げた彼女の横顔が、今も心に深く刻まれている。彼女はまるで天使のようだった。吾輩のあの日の約束が現実になっているのだ。
夏の夜空と花火の美しさに圧倒されながら、私は一瞬立ち尽くした。彼女が笑いながら瞬きをして、その瞬間、輝く銀の翼がほんの少しだけ先に見えた。まるで、彼女が特別な意味を持ってこの場に現れたかのように感じた。
「やっぱり、夏祭りはあなたと一緒が一番楽しい。」自分の言葉が自然に出てきた。その瞬間、彼女の視線が私を捉え、微笑んだ。「約束通り、来年もまたここで会おう。」
彼女の言葉は、まるで運命のような響きを持っていた。そして、燃え上がる花火の下で、私たちは永遠の思い出を刻んだ。銀の翼を持つ彼女は、私の心にいつまでも生き続けるのだろう。