「心の影を写すカメラ」

短編小説
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「心の影を写すカメラ」

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「心の影を写すカメラ」

薄曇りの空が広がる日、樹木の間からわずかに差し込む光が、静かに立ち尽くす古い写真館を照らしていた。街の人々はその存在を忘れ去ったかのように無関心に通り過ぎ、ただ風だけが軽やかにその窓を揺らしていた。外観は傷みが目立ち、ペンキは剥げ落ち、木製のドアは年々重くなったかのように動かすのも一苦労だ。

その写真館の中に、若い女性、梨花がふらりと立ち入った。彼女は最近、理由もわからぬまま不安に苛まれていた。特に夜になると胸騒ぎが強くなり、眠れない日々が続いていた。そんな折、ネットの掲示板で「心の重荷を軽くする」写真が撮れると噂のこの場所のことを知り、思わず足を運んでみたのだった。

店内はほの暗く、埃をかぶった機材や古びた写真フレームが無造作に積み重なっている。天井からは吊り下げられている白熱灯の光が、薄っすらと影を落としている。その中央に、一人の中年男性がカメラの前で無造作に座っていた。彼の名は吉村。店主であり、時の流れに取り残されたかのような存在感を放っていた。

「いらっしゃい。何をお求めかな?」と吉村は静かに尋ねる。

「私は、心の何かを癒してくれるような写真が欲しいです」と梨花は答えた。

「それなら、私の特別なマシンを試してみるかい」と彼はニヤリと笑った。「この写真館には、特別な力を持つ古いカメラがあるんだ。」

その言葉に引き寄せられるように梨花は、彼の指差す方へと歩を進めた。そちらには、埃をかぶった古びたカメラが台の上に置かれている。レンズは大きく、まるで時代を超えてこちらを見つめているかのようだった。

「このカメラで撮影すると、心に秘めた不安や悲しみを浮き彫りにすることができる。その後、自分自身を見つめ直す機会を持てるだろう。不安の正体を見極めてこそ、心は軽くなるからな。」

梨花は少し驚いたが、好奇心が勝った。「それをやってみたいです。」

彼女はカメラの前に立ち、深い呼吸をして見つめ直した。シャッター音が響いた瞬間、まるで夢の中にいるような感覚に包まれた。次の瞬間、彼女は古城のような場所に立っていた。

その城は長い間放置されているようで、周りには厳しい風が吹き荒れ、苔むした石の壁がどこか神秘的だった。彼女の心の奥で不安の影がまとわりついてきたが、それを感じながらも、まるでその不安を受け入れさせられているかのようだった。暗い通路を歩くと、様々な古い絵画や彫刻が彼女を見つめ返してくる。その中の一つ、女性の肖像画が特に心を惹きつけた。彼女の目は寂しげで、まるで何かを求めるかのようだ。

梨花はその絵の前で立ち止まった。瞬間、絵から何かが流れ出て、自分の心の中に染み込んでくる感覚がした。それは彼女自身の不安そのものだったが、同時にそれを受け入れることで、自分の一部でもあると理解した。

「私は何を恐れていたのだろう?」梨花は自問自答する。心の声は明瞭だった。未来への不安、失敗への恐れ、周囲の期待に応えなければならないというプレッシャー。全てを吐き出すことができた今、彼女は少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。

その時、優しい風が吹き、城の中の一切が彼女を包み込む。心の重荷が次第に抜け落ち、ただの思い出に変わっていく。自分との対話が終わったとき、梨花は立ち上がり、静かに出口へ向かって歩き出した。

次の瞬間、彼女は写真館の中に戻り、吉村が意味深に微笑んでいるのが見えた。「どうだった?」

「不安がただの思い出になった気がします。忘れることはできないけれど、受け入れることはできると知りました。」

吉村は頷き、カメラをしまいながら言った。「一度気づくことができたら、心はもっと自由になる。どんな不安も、共存できるはずだ。」

梨花は帰り道、自分の心に小さな光を見つけたように感じていた。古い写真館からの帰り道に、彼女はもう不安をただ抱え込むことはなかった。それを理解し、受け入れることができたのだ。心の中に光が差し込んでいるように感じた。次の訪問は、もしかしたら新しい自分を見つけるためになるだろうと、思いを馳せながら歩き続けた。


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