「ブラックホールの向こう側」

短編小説
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「ブラックホールの向こう側」

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「ブラックホールの向こう側」

砂漠の真ん中、数キロごとに現れる小さなオアシスが、その土地の人々にとって救いの場であった。そのうちの一つに、アリスという若い女性がひっそりと暮らしていた。オアシスは美しいヤシの木と透き通った水を湛えていたが、その美しさの裏には奇妙な隣人がいた。

その隣人は、エルロンという名の男で、長い髭と異常に大きな瞳を持っていた。彼はいつも暗い服を着ており、近くの砂漠に現れることはほとんどなかった。だが一度、アリスが水を汲みに行こうとしたとき、彼女はふいにエルロンが彼女の背後に立っているのに気づいた。彼は何も言わず、ただじっと彼女を見つめていた。

「驚かせないでよ」とアリスは言った。すると、直後、彼の目が一瞬にして金色に光った。彼女はぞっとしたが、同時に強い好奇心に駆られた。この出会いが、彼女の運命の始まりになるとは、そのときは知る由もなかった。

エルロンは時折、午前中の暑さの中でも出てきては、宇宙やブラックホールについて話すことがあった。彼の話は常に謎めいていて、理論的でありながらどこか夢のようだった。彼が語るブラックホールの話は、アリスにとってまるで異世界の物語を聞いているかのようだった。「ブラックホールは、すべてを飲み込み、別の次元に送り込む」と彼は言った。

ある日のこと、アリスは彼の話に興味を持ち、思い切って聞いてみた。「あなたはどうしてそんなことを知っているの?」

エルロンは一瞬黙り込み、思い出すように言った。「私は、実際に見たことがある。私の故郷の惑星には、異なる次元の扉があって、そこからブラックホールが見えた。」

アリスは心を掴まれた。しばらく考えた後、彼女は言った。「それなら私も見てみたい。」

すると、エルロンは微笑み、砂漠の奥深くに隠された秘密の場所を教えてくれると言った。それは、彼の話すブラックホールに通じているというのだ。

数日後、アリスはドキドキしながらエルロンと共に砂漠を旅した。彼が示す場所に向かうにつれ、周囲の風景はどんどん奇妙になっていった。灰色の砂が広がり、青い空の下で強い陽射しがうねり、まるで別の宇宙に迷い込んだようだった。

やがて二人は高い砂丘にたどり着き、そこから砂漠の向こうを見渡すと、驚くべき光景が広がっていた。それは大きなブラックホールのような渦巻きで、空の色が異常に激しく変化していた。アリスはその光景に圧倒され、目を離すことができなかった。

エルロンは言った。「この現象の向こうには、別の世界がある。そこに踏み入れた者は、決して戻れない。しかし、好奇心が強ければ、そこに何が待っているのかを知ることができる。」

アリスは恐れを感じながらも、自分の人生の中でこれほどまでの冒険は初めてだった。興奮と不安が交錯する中、エルロンは彼女に手を差し伸べた。「さあ、行こう。」

彼女は迷ったが、ふと振り返ると美しいオアシスが見えた。いつもいた場所だ。彼女はその景色から、平穏さと安全を感じ、刹那に心の中で決断した。「私は行く。」

エルロンの手を取った瞬間、彼女は目の前の渦巻きに吸い込まれるように進んでいった。意識が遠のく途中、彼女は一瞬、オアシスの静かな水面が揺れるのを見た。その瞬間が、彼女が今まで知っていた世界の最後となるのだと。

目が覚めると、不思議な空間に立っていた。色とりどりの星々が彼女を取り囲み、空には無数の光が点滅していた。それは彼女の想像を超えた美しさだった。が、同時に彼女は孤独だと感じた。

「これがブラックホールを越えた先の世界なのか?」アリスが呟くと、エルロンは彼女の隣に現れ、微笑んだ。「この世界では、想像が現実を創る。あなたは、新たな冒険の始まりを迎えたのです。さあ、行きましょう。」

彼女は深呼吸をし、自分の決意を確かめた。目の前に広がる不思議な世界が、今の彼女を待ち望んでいるかのようだった。新たな冒険と未知への扉が、彼女の心に宿っていた。


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