「時を超えた手紙のメロディ」

短編小説
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「時を超えた手紙のメロディ」

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「時を超えた手紙のメロディ」

彼女の名前は理恵。小さな町の端にある古い書店で働いていた。賑やかな街中とは対照的に、彼女の店には薄暗い光が差し込むだけの穏やかな空気が漂っていた。店の奥、長い間誰も手を触れていない本の山の中に、運命的な一通の手紙が隠されているとは彼女も知らなかった。

ある日、理恵はいつものように本を整理していた。ふと、彼女の目に留まったのは、表紙の痛んだ古びた本だった。タイトルは読めなかったが、手のひらサイズで、色褪せたカバーが彼女の興味を引いた。ページをめくると、何かが落ちてきた。理恵はそれを拾い上げると、一通の手紙だった。

手紙には、滑らかな筆跡で書かれた文字が並んでいた。

「愛しい君へ、空の果てで待っている。僕たちの時空を超えて、君に伝えたいことがある…」

その瞬間、彼女は心臓が跳ねる音を感じた。手紙の宛名はなく、ただ「君」としか書かれていなかった。内容は、どうやら彼女に向けたものではないらしいと思ったが、好奇心が勝った。理恵は、この手紙の持ち主を探すことにした。

翌日から、理恵は町の図書館で過去の歴史や著名な人物に関する資料を読み漁り、手紙の出所を探り始めた。しかし、調査が進むにつれて、彼女はその手紙が書かれた正確な時期や相手について何も分からないことに気づいた。古い日付や暗号めいた表現は、彼女をさらに迷わせるだけだった。

だが、彼女はあきらめなかった。どこかでこの手紙を受け取るべき名もなき人がいると信じていたからだ。

数日後、理恵は町の市場で出会った常連客の男性、小林にこの手紙のことを話した。小林は優しい目をしていて、彼女よりも少し年上だ。彼は手紙を読み、理解が深まっていた。

「おそらく、君はその手紙が誰かに宛てられたもので、それを真剣に考えすぎている。もっと自由に考えたほうがいいんじゃないか」と告げた。彼はそう言って笑ったが、理恵は何かが引っかかっていた。

その後、理恵は何度も小林と話す機会を持つようになり、自分の興味や夢を打ち明けるようになった。本が好きで、いつか自分の物語を書きたいという思いを伝えた。彼女は、どこか空虚な気持ちと生きる実感の狭間で揺れ動いている自分に気づいた。小林もまた、何か特別なことを追い求めている様子だった。

ある晩、理恵は夢を見た。夢の中で彼女は不思議な場所にいる。青く美しい空が広がり、雲の中に長い橋が架かっていた。手紙の内容を思い出し、渡ろうとするが、すれ違った誰かが彼女を引き止めた。彼女が振り返ると、それは小林だった。彼の目は真剣で、そこに何か切実な思いが込められているのを感じた。

「君を待っていた。君が進むべき道はここじゃない。僕は…」と言いかけたところで目が覚めた。夢から覚めた理恵は、心臓が高鳴っているのを感じた。手紙の主は夢の中の小林なのか、それとも何か別の存在なのか。彼女は、時空を超えた手紙の持ち主が彼女のすぐそばにいると感じた。

しかし数日後、理恵は小林が町を離れる予定があると知る。彼は新しい仕事のオファーを受けていて、その話を耳にしたとき、理恵は胸が締め付けられる思いをした。彼に何も伝えないままでいいのか、自分の気持ちが無駄に終わるのか、葛藤が彼女を襲った。彼女は小林に手紙のことを話すべきか、それとも今の静かな関係を守るべきか心を悩ませた。

出発の日、理恵はその基地となる駅で小林を待った。彼女は手紙を持っていたが、気持ちを伝える勇気は出なかった。小林は笑顔で現れ、最後の時間を贅沢に楽しい話で彩った。しかし、彼女の心の中には言えない思いが渦巻いていた。

「あなたに会えて、私も空の果てのような可能性を感じました」と言いたかったが、その思いは言葉にならず、ただ笑顔で見送るしかなかった。

その後、理恵は小林が去った後も手紙を大切にしながら、自分の物語を紡ぐことにした。時空を超えた手紙が導いた人との関係。彼女は、すれ違いながらも彼の存在を心の中に留め、今を生きる。

理恵はふと思った。あの手紙が語っているのは、たとえ時空を超えても、心を通わせることができるという希望ではないかと。手紙を書くことは時には大切な別れを意味するが、それでも彼女は、未来に繋がる何かがあったのだと信じていた。


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