「夏の終わりに咲くひまわり」

短編小説
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「夏の終わりに咲くひまわり」

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「夏の終わりに咲くひまわり」

夏の終わり、青い空が広がり、ひまわり畑が金色の海のように揺れていた。太陽の光を浴びたひまわりたちは、その花びらを大きく開き、まるで来るべき秋を待ちわびるかのように揺らいでいた。

由美は、友人のえりと一緒に、毎年恒例の縁日に向かう途中、ふと立ち止まった。「ねえ、これ見て!」

えりが指差した先には、ひまわりの群生が広がっていた。由美はその美しさに心を奪われ、思わず息を飲んだ。茎がしっかりとしていること、そして何よりもその鮮やかな色合いが、心の中に温かさをもたらした。由美は、ふと以前の夏休みを思い出した。あの頃、自分はいつも、学校の友達と一緒にこの畑に訪れ、ひまわりの花を摘んで、家に持って帰っていた。その思い出は、青春の一瞬を彩る小さな宝物のようだった。

「どうする?ちょっと寄ってみる?」えりの言葉に、由美は頷いた。そのまま足を進め、ひまわりの摘み取りを楽しむことにした。花の香りが心地よく、太陽の光が肌を温め、なんとも言えない充実感に包まれた。

ひまわり畑から離れた後、彼女たちは海岸通りを歩いて行った。潮風が心地よく、海の青さが浴衣の柄のように映え、思わず笑みがこぼれた。夕方の海岸は、静かで落ち着いた時間が流れていた。

やがて、縁日が催される広場にたどり着いた。提灯の明かりが、夜の帳の中で温かく輝き、活気に満ちた声が響いていた。出店が並ぶ通りは子供たちの笑い声や、屋台の食べ物の香りで溢れている。由美は一瞬、その光景に心奪われた。

「わあ、いろんな屋台があるね!」えりの声に、由美も目を輝かせた。「焼きそば、わたあめ、かき氷もある!」

最初に彼女たちは、色とりどりのわたあめを買った。ふわりとした甘い香りが鼻をくすぐり、なんとも楽しい気分にさせてくれる。彼女たちは、わたあめを片手に、出店を巡り始めた。

肌寒い夜風に吹かれながら、由美とえりは懐かしい遊びに興じた。金魚すくいや射的、ときにはお化け屋敷にも挑戦した。由美は、かつての自分と同じように、無邪気に笑っていた。

一方で、えりは少し緊張している様子だった。「ねえ、実は、あの射的、ちょっと苦手なんだ。」由美はそんな彼女を励ましながら、次々と楽しむ姿を見せた。射的の的を狙うと、見事に一発で当ててみせた。「ほら、こんな感じ!」

「由美は上手だね。私も頑張る!」えりはそう言って、持っていた銃を構えた。彼女の真剣な表情は、子供の頃の自分を思い起こさせた。

射的が終わると、花火が夜空に打ち上がった。大きな音とともに、花火が色鮮やかに広がり、二人は仰ぎ見た。火花が光の雨になり、二人の表情を照らしていた。由美は心の中で、これが仲間と共に過ごす特別な夏の締めくくりだと感じていた。

花火が終わると、由美とえりは、波打ち際に向かい、砂浜に腰を下ろした。潮の音や風のささやきが心地よく、彼女たちはしばらく黙って海を眺めた。「今年の夏も、楽しかったね」と由美が言うと、えりはうんと頷いた。

「今までの思い出も、これからの思い出も、大切にしたいね」

その瞬間、由美もそう思った。この夏の出来事や、ひまわりの美しさ、縁日の楽しさすべてが、二人の心に刻まれる瞬間だった。

夜が深まって、お互いに軽く肩を寄せ合いながら、彼女たちは静かな海岸の音を聞いていた。ささやかな幸せと共に、夏の終わりを見つめる時間が、心に温かく染み込んでいく。


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