「流れる雲と共に」

短編小説
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「流れる雲と共に」

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「流れる雲と共に」

静かな午後、窓の外を見つめると、流れる雲が白く浮かんでいた。天気も良く、強い日差しが目を細めさせるほどだったが、心の中はどこか曇りがちだ。翔太は自分の机に向かい合いながら、その雲を眺めることで、心の中を整理しようとしていた。

彼は最近、大切な人を失った。親友の和也が、急な病でこの世を去ったのだ。翔太はその知らせを受けた時、まるで心の中に穴が開いたかのように感じた。和也とは高校時代からの付き合いで、互いの夢を語り合いながら支え合ってきた仲だった。その彼がもうそこにいないという事実が、どうしても受け入れがたかった。

翔太は仕事が手に付かなかった。目の前の資料が、まるで和也に関する話をしているかのように感じられる。彼の笑い声、冗談、無邪気な瞳が脳裏をよぎっては消えていく。何かをしようとしても、いつも和也の存在に影響されていた彼の日常が、今はただの音のないスクリーンのように思えてしまう。

仕事の合間に、翔太はためらいながらも和也の実家へ向かうことにした。彼の家族はすでに悲しみに暮れているだろう。自分の存在が、その悲しみを少しでも和らげることができるのか。それとも、さらに彼らを悲しませるだけなのか。計画を立てるたびに、心の中のためらいが大きくなっていった。

結局、翔太は自らの決意を振り絞り、足を進めた。到着すると、和也の母が静かに迎えてくれた。表情には深い悲しみがにじんでいたが、翔太の姿を見ると一瞬だけ微笑んだ。それがまた、彼の心に刺さった。その微笑みは、まるで「大丈夫」と言いたげだったが、翔太は無力感に襲われた。

リビングに通されると、壁には和也の写真が飾られている。元気いっぱいの彼は、まるで微笑みかけているようだった。翔太はその写真の前に立ち、言葉が見つからなかった。結局、何も言えなかった。何を言えば、彼が思い出される痛みを和らげることができるのだろうか。翔太の胸は苦しく、涙が出そうになったが、堪えた。

ひとしきり会話を交わした後、翔太は和也の部屋に入ることを許された。彼の部屋には、残された本や漫画、思い出の品々が散らばっていた。翔太はその中の一冊の本を手に取った。それは二人でよく一緒に読んでいた冒険ファンタジーだった。「これ、ほとんど一緒に読んだよな」と、自嘲気味に呟いた。和也と過ごした日々が、心にやさしく流れ込んでくる。

だが、不意に悲しみが押し寄せてきた。流れる雲のように、ふわりと揺れる楽しい思い出があったのに、やがてそれが消え去り、再び彼の胸に重いものがのしかかる。翔太は心の中で何度も叫んだ。「和也に会いたい、もう一度話がしたい」と。過ぎ去った日々にためらいを感じ、どうして彼がいなくなってしまったのかを問い続けた。

「俺、本当に大切に思っていたのに」と気が付いた時、翔太は泣いている自分に驚いた。涙が流れ落ち、彼はそのまま和也のベッドに腰を下ろした。彼の存在が、物理的には消えてしまったのだが、その記憶は彼の中で生き続けていた。翔太は少しずつ思い出を受け入れる準備をしていた。

外には流れる雲が、青空を背景に柔らかく漂っている。翔太は窓を開け、風を感じた。その瞬間、ほんの少しだけ和也と一緒にいた日のことを思い出した。彼の笑顔、言葉、そして冒険の夢。翔太は普段なら感じることのない、穏やかな気持ちが広がるのを感じた。失ったものの哀しみは消えそうになかったが、思い出が心を満たすこともできるんだと気づいた。

再び和也の母と話すと、彼女も翔太の涙を優しく受け止めてくれた。「大丈夫、みんな悲しみを抱えている。でも、和也は私たちの心の中に生きているの」と、彼女は静かに言った。その言葉に、翔太は少しずつ前に進む勇気を得られた気がした。彼のために、明るい未来を思い描くことができるかもしれない。

この哀しみは、翔太を強くし、和也との思い出を服に着るように彼の一部になっていくのだろう。そして、流れる雲のように、彼もまた旅を続けることができる。心の奥にいる和也とともに、これからの道を歩んでいこうと、翔太はそっと決意した。


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