「時を超える航海」

短編小説
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「時を超える航海」

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「時を超える航海」

彼は古びた本をめくりながら、奇妙な言葉を見つけた。それは「タイムマシン」というもので、彼の心に好奇心をかき立てた。冷たい風が吹く中、町の外れにある暗い洞窟へと向かうことにした。洞窟の入り口は苔むしており、まるでその先に秘められた時代の扉を隠すかのようだった。

進むにつれ、洞窟の奥で何かが光を反射していた。そっと近づくと、そこには錆びた船が横たわっていた。船体は年季が入っており、どこか昔の記憶を語りかけるようだった。彼は心の中に浮かぶ疑問に答えてくれる存在を求め、船に触れた。

すると、突如として船全体が振動し、周囲の空間が歪み始めた。次の瞬間、彼は海の上に立っている自分を見つけた。周りには無限に広がる青い海、空には雲が悠々と流れ、船は白い帆を張っている。彼は別の時代へ向かう瞬間を迎えようとしていた。

次第に、彼は時空の旅を志した理由に思いを馳せた。人生における選択や後悔、出会った人々との別れ、そして再び会うことができないかもしれないという怖れ。それでも何かを変えたくてたまらなかった。

船は古い海図を持った少年と共に、彼の心で思い描く道を進んだ。重要な局面に差しかかる彼。その日、彼の前に立ちはだかるのはかつて愛した人だった。彼女は過去の自分ではなく、未来の姿となって現れた。彼の心臓は高鳴る。彼女は笑っているが、その瞳の奥には憂いが宿っていた。

「なぜ戻ってきたの?」彼女は問いかける。彼は驚き、口をつぐんでいたが、内心では何を話すべきかを考えていた。

「君を助けるために。」彼の答えは、正直すぎるほど真剣だった。「あの日、君を失った。もう二度と同じ思いはしたくない。」

彼女は静かに微笑み、言った。「でもそれは、運命を変えることではない。全てには理由があるのよ。戻ったって、私たちの未来は変わらないかもしれない。」

彼はその言葉を噛み締めた。運命とはまるでその暗い洞窟のように、予測できない形で存在するものだと。そして、彼の選択もまた、自分の未来へとつながっているのだ。

その瞬間、鮮やかな光が洞窟の中に戻り、彼は再び錆びた船の前に立っていた。時は進み、おそらく数瞬しか経っていなかったが、彼の存在は変わったかのように感じた。

一歩後ずさりし、彼は洞窟を後にしようと決意した。船と彼の思い出は、一つの物語として心に刻まれた。再びその場所を訪れることはないだろうが、彼の中で何かが変わった確かな感覚があった。

外に出ると、夕日が地平線を照らしていた。彼はその光を受けて、もう一度未来に目を向けることを決めた。過去を抱えつつも、前に進むしかないことを理解した。それは夢ではなく、彼に与えられた現実なのだ。

時を超えた旅は、彼に大切な教訓をもたらした。自分の過去を悔いるのではなく、未来をどうしたいのかを考えることだ。彼はゆっくりと歩き出した。その足音は自分自身への誓いを込めた新たな旅の始まりだった。


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