「羽根の導き」

短編小説
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「羽根の導き」

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「羽根の導き」

その日、瑠美は幼い頃から憧れていた森の奥へと足を踏み入れた。木々は高く、太陽の光は葉の間から差し込んでは散り、地面に斑模様を作っていた。深い緑の中を進むごとに、瑠美の心は期待感でいっぱいになった。彼女は「秘密の場所」を見つけたかった。その場所には、雲の上にでもあるような特別なものが隠されていると信じていたのだ。

歩みを進めると、森は次第に静寂に包まれた。小鳥のさえずりも徐々に聞こえなくなり、彼女の呼吸音だけが森の中に響く。不安が胸をかすめた瞬間、瑠美の目の前に一軒の古びた小屋が現れた。小屋は苔で覆われ、窓は割れていたが、不思議とそれが彼女を惹きつけた。

瑠美は小屋の扉を押し開けた。内部は暗く埃が舞っており、長年誰も訪れていないことがわかる。しかし、その空間の中には何か神秘的なものがあるように感じた。小屋の中央には大きなテーブルがあり、その上には見たことのない美しい羽根が散乱していた。瑠美はそれを手に取ると、どこか温かさを感じた。

その瞬間、扉がバンと閉まった。瑠美は驚き、その音に反応して振り返った。すると、すべての光が消え、真っ暗になった。恐怖を感じたが、心の奥底では何か大切なことが待っているのではないかという思いがあった。彼女はその場から動けず、密室に閉じ込められてしまったのだ。

暗闇の中で彼女は羽根を握りしめた。すると、ふいに周囲がまばゆい光で包まれ、瑠美は雲の上に立っている自分に気づいた。目の前には美しい雲が広がり、その上を小さな精霊たちが遊んでいた。彼女はその光景に息を呑んだ。この瞬間こそが、彼女がずっと探していた「秘密の場所」だったのだ。

精霊の一つが彼女に近づいてきた。金色の髪を持つその精霊は、瑠美の手にある羽根を見つめ、微笑んだ。「あなたは選ばれし者。私たちは待っていました。」その言葉に驚く瑠美だったが、同時に心が躍った。彼女はこの世界に存在している運命だったのかもしれない。

「この羽根は、あなたが持つべき力を象徴しています。森の奥から持ち込んだあなたの思いが、私たちを呼び寄せたのです。」精霊は続けた。「しかし、あなたの心が弱まり、大切なことを忘れれば、再び密室に戻されることになるでしょう。」

瑠美はしっかりと羽根を抱え、精霊たちの言葉を心に刻んだ。この羽根はただの装飾品ではなく、彼女自身の内面を映し出すものであり、森の奥で探していたのは自分の力だったのだと悟った。

彼女は精霊たちと共に空を舞い、雲の上の景色を楽しんだ。そして、彼女の心には確かな自信が湧いてきた。どんな困難も乗り越えられる、その力は自分の中にあるのだと確信したのだ。しばらくの間、彼女はその不思議な世界で遊ぶことができた。

しかし、心のどこかで密室のことが気にかかっていた。美しい思い出の裏には、忘れてはならない何かが潜んでいる。彼女は精霊たちに尋ねた。「私がこの世界にいる間、現実の世界はどうなっているの?」

精霊たちはその問いに、少し目を伏せた。「あなたがここで過ごす時間は、現実の世界ではごく短い瞬間しか経過しません。しかし、あなたが戻る時、心の準備ができていることを忘れないでください。」

瑠美はその言葉に深くうなずいた。喜びと不安が入り混じる感情の中で、彼女は自分が何を成し遂げるべきなのかを感じ取っていた。自分の強さを信じ、また慌ただしい現実に戻る準備をしなければならない。

そして、彼女は心に決めた。彼女の旅は終わりではなく、新たな旅の始まりなのだと。精霊たちが手を振る中、瑠美は再び光の中に消えていった。

目を覚ますと、彼女は小屋の中に立っていた。外はすっかり夕暮れ時で、空には星々が瞬いていた。瑠美は羽根を見下ろし、自分の内面が変わったことを感じた。彼女はもう一度森に入り込むことができるだろう。その冒険は、彼女の心に新たな希望をもたらしたのだ。

彼女は小屋を後にし、森の奥を振り返りながら、雲の上の不思議な体験を胸に秘めて歩き始めた。そして、自分の力を信じ、未来へ向かう彼女の目には、確かな光が宿っていた。


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